Paddles ON! London に関してのいくつかのメモ

2013年の10月にニューヨークで開催されたデジタルアートのオークション「Paddles ON!」が,今度はロンドンで開催される.23作品が出品されている.出品作品をざっとながめると「絵画」が多い.絵画といってもデジタルペイントが多いが,そのなかにはJeanette Hayes《Press ESC to Escape》2013のような油絵具を使ったものもある.この作品が象徴的なのだが,今回のオークションで取り扱っているのは「デジタル」の作品ではなく,「『デジタル』『インターネット』を通過した後」の作品であるため,その表現媒体に必ずしも「コンピュータ」を用いているわけではない.

JEANETTE HAYES
Press ESC to Escape, 2013
Lot Number 12
Oil on chromogenic print on canvas
77.5 x 94 cm (30.51 x 37.01 in)
Courtesy of the artist
Estimate £1,000 - £1,000

特別な絵画手法でデジタルな題材を描いて,インクジェットように見えながらよく見ると絵画といった作品をつくるMichael Staniakは自らのことを「ポスト・インターネットアーティスト」だと見なしている.「ポスト・インターネット」という言葉は多く使われてきたが,アーティスト自身が自らを「ポスト・インターネットアーティスト」と呼ぶことに,この言葉が使い古されたものになったことを強く印象づけられた.

MICHAEL STANIAK
IMG_885 (holographic), 2014
Lot Number 7
Casting compound and acrylic on board with steel frame
121.2 x 91.2 cm (47.72 x 35.91 in)
Courtesy of Steve Turner Contemporary
Signed on the reverse
Estimate £3,500 - £4,750

今回の出品作品では,Yung Jakeによる「カーソル」の映像作品《Squiggle》2014とYuri Pattisonの3Dプリンタ彫刻《chelyabinsk eBay extrusions》2013がとても気になった.

YUNG JAKE
Squiggle, 2014
Lot Number 16
Digital video, media player, monitor
66.7 x 39.4 x 7 cm (26.26 x 15.51 x 2.76 in)
Unique
Courtesy of Steve Turner Contemporary
Estimate £1,200 - £1,800

YURI PATTISON
chelyabinsk eBay extrusions , 2013
Lot Number 3
.925 silver, 316L stainless steel, titanium and .STL files
Dimensions Variable - Largest: 4.5 x 4.1 x 2.5 cm
1 of 3
Courtesy of the artist
Each element is signed on the underside in UV ink.
Estimate £2,000 - £2,500

Yung Jakeの作品は「ドローイング」シリーズのなかのひとつである.「カーソル」が白い画面を動いていることを「ドローイング」という感覚に,私はどことなく違和感を抱く.それは「カーソル」がマウスとヒトから切り離されて,独立したものとして扱われているからかもしれない.だから,Yung Jakeの作品にはヒトの気配も感じないし,コンピュータの気配も感じない.ただカーソルが動いている,それだけである.しかし,「それだけ」というところまで「カーソル」に付随するものを削ぎ落したとも言えるし,その作品シリーズ「ドローイング」という言葉を与えていることは考えるべきである.それは.誰が・何が「ドローイング」をしているのかを考えることなのではないだろうか.いや,「ドローイング」をしている主体を考える必要もないというのが,Yung Jakeが目指していることなのかもしれない.それは単にコンピュータを使った「ドローイング」なのであって,そこでは描いている主体がYung Jakeというヒトであることは,これまでの絵画のように極々当たり前のものなのだろう.

Yuri Pattisonは「デジタルで作品をつくるということは,特に3Dプリントでは,作品に付随して・作品によって伝えられる情報が最も重要である.その価値はその作品がコピーであるか,オリジナルであるかに必ずしも基づくわけではない」と考えているところが興味深い.このアイデアを体現するために,彼はロシアに落ちた隕石の破片としてeBayに出品されている石の画像を集め,そこから3Dモデルをつくる.もともとの「石」が本当に隕石なのかどうかわからない.ここでは「隕石」かもしれないという情報だけで,その「石」は売買されている.そして,Yuri Pattisonはその「石」の画像から3Dモデルをつくる.ここではもともとオリジナルかどうかわからないものが,いくらでも複製可能な画像になり,それを使って,またいくらでも複製可能な3Dモデルをつくるわけである.その結果として,エディションが「3」と生産数を限定された彫刻(?)がつくられ,それがいくらでも複製可能な3Dモデルデータとセットでオークションに出品されて,価値がつけられようとしている.

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